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「いい木を使って、いい家をつくり、長く住んでほしい」―埼玉県さいたま市「こもだ建総」の一途な想い

連載「みなみが行く!」~第3回~
モックブログ企画!「みなみが行く!」
2年目社員の高橋みなみが、建築・工務店業界の先輩に突撃し、業界のことや家づくりのことについて教えていただくコーナーです。
第3回目は、さいたま市の「こもだ建総」様の構造見学会にお邪魔して、ほのかにヒノキが香る中、代表取締役社長 菰田 誠様に家づくりにかける想いをお聴きしました。菰田社長の想いはシンプルに「いい木を使って、いい家をつくり、長く住んでほしい」。その純粋で一途な言葉に、気が引き締まる思いです。

「家づくりって奥深い!」先代に出会い、工務店の世界に飛び込む
—こもだ建総様は創業昭和41年の会社です。菰田社長は、もともと一般社員として入社され、その後二代目として跡を継がれたそうですが、なぜこの会社を選ばれたのでしょうか?
先代と出会い、「家づくりってこんなに奥深いんだ」という衝撃を受けたからです。
少し遡ってお話をします。僕は大学では建築を専攻していました。進路を決める中で住宅の道に進むことに決めたのですが、大手のハウスメーカーや地域の工務店などの選択肢があります。ただ、当時はどんな工務店がどんな仕事をしているのかが、全く分からなかったんです。まだ今のようにインターネットも普及していませんので、ゼミの教授に「このあたりで良い工務店を紹介してください」と相談しました。そこで紹介されたのが「こもだ建総」でした。
先代と初めて会ったのは、「技能五輪」という大工の腕を競う大会です。当時の僕は「木造住宅生産における技能者育成」というテーマで論文を書いていて、取材を兼ねて訪ねました。
今、大工の人材不足が声高に叫ばれていますが、当時から職人の育成は業界全体の課題になっていました。この「技能五輪」は職人育成の場の一つになっていたんです。
先代の菰田勇司はとにかく凄い人だったんですよね。自分が大工としていい家をつくるのはもちろん、全国の工務店を巻き込んでネットワークを作り、職人の技術向上や労働環境の改善、社会的地位の向上などに精力的に取り組み、業界全体をひっぱっていくような存在だったんです。
一つの家、一つの材料に向き合うひたむきさと、業界全体や未来のことを見据えた先見の明。その両方を兼ね備えた先代の話を聞くうちに、すっかり引き込まれていました。
「家づくりってすごい…」と感動して、そのまま入社を決めました。
—入社当時はどのようなお仕事をされていたんですか?
最初の2年間はひたすら雑用ですね。ホームページを作ったり、営業資料の整理をしたり…。だんだんと打ち合わせの補助に入らせてもらえるようになり、それから営業や現場監督を経験し、最終的には経営的な部分にも関わるようになりました。
実を言うと最初は僕自身も何がやりたいのかよく分かっていなかったんです。会社に入るときに「何をやりたいの?」と聞かれたときは、「施工(大工)」と答えました。この時はなんとなく家づくりに深く携わるなら大工かな、くらいの気持ちで、もちろん大工の経験はありませんでした。
結局、3年間は色々な仕事を経験してみようという話になり、現場ではなく社内の業務や営業を必死でこなす日々でした。先代はじめ、こもだ建総は腕利きの大工さんたちが活躍している会社なので彼らに憧れる気持ちはやっぱりありましたが、最終的には現場監督を目指すことを決めました。

大工の「木づかい」でこそ、いい家はできる
—こもだ建総様は「大工が作る家」「大工の腕」というところにこだわりを持っていらっしゃいますよね。
僕たちが扱っている無垢材は、作り手によって良くも悪くもなり得るので、大工の腕が家の完成度を左右するんです。
そもそも、「木材」というのは建築材料として必ずしも使いやすいものではありません。質が良いものも悪いものもあるし、くせもあります。
それに木にも個性ってあるんですよ。ひねくれている木もあれば、強いけど見た目がよくない木もあれば、やたらと曲がりたがる木なんていうものもあります。
そういう違いを無視して全て同じように施工するだけでは、いい家を作ることはできません。逆に良さを引き出してあげるような使い方ができれば、すごくいい家になると思うんです。
大手のハウスメーカーさんであれば、いかに狂いなく安定して、同品質の家を供給できるかが求められる世界だと思うので、材料の均一性がすごく重視されます。
僕たちはできるだけ自然素材を使うという前提で家づくりをしているので、木の適材適所を見極めながら、できるだけ自然に近いカタチで活かしたいんです。それを実現してくれるのが大工さんであり、彼らの「木づかい」です。
日本ではもともと、数千年に渡り受け継がれてきた木造の家づくりの技術があります。これは世界に誇るすごい文化です。
ただ、今は時代が変わり「家は工場で作った部材を組み立てて作る」ほうがむしろ一般的です。時代遅れだと言われたらそうなのかもしれませんが、それでも、お客様の想いを受けとめた職人が、創意工夫を凝らした「技」を使い、心を込めた家づくりをしなければ、いい家はできないんじゃないかな。

—実際に会社を継いで、受け継いでいかれていること、あるいは変化したこと/させていきたいことなどはありますか?
自然素材を使うことや、大工がつくるといったポリシーは先代のころから引き継いでいるものです。
先代は私にとって義父にあたる人なのですが、先も言ったように凄い人だったので誰が継いでも大変なことは目に見えていました。それでも「他の誰かに任せるよりも、自分でできるところまでやりたい」と思ったんです。
ただやはり、難しいところも多くて、大工さんのなり手が少なかったり、入っても続かないというのは、ずっと頭を悩ませている問題です。学生時代の「木造住宅生産における技能者育成」というテーマの研究が、今もずっと継続中ですね。
また、僕自身の想いとして、もっと自然に近い状態で無垢の木を使った家づくりを進めていきたいなとも思っているんですが、自分の考えと組織での役割分担のバランスや仕入れの問題だったりで、色々な壁にも直面しています。
僕が社長になって10年目になりますが、ずっと悩みながら試行錯誤の連続ですね。国産の無垢材を使うこと、自然素材を使うこと、大工さんの手作りであること、その芯の部分は変わらないですが、もっと尖らせたいという思いはあります。
家で過ごす時は、一番気持ちよくてストレスの少ない時間であってほしい
—こもだ建総様では素材や技術へのこだわりに加えて、断熱や耐震などの性能や構造の強化にも早くから取り組んでいらっしゃいます。そこにはどのような理由があるのでしょうか?
家というのは生活の場です。なので、家で過ごす時が一番気持ちよくてストレスの少ない時間であってほしいという思いがあります。
家の中での安心や安らぎをつくるのは何か一つのものではなく、小さな要素の積み重ねです。特に暑い・寒いは大きなストレスの要因になります。
断熱がしっかりしている家は冬でも暖かく快適なのですが、逆に寒い家はものすごく不快です。僕は子どもの頃、冬場は自分の部屋で、外にいるときと同じくらい厚着をして過ごしていました。リビングでもずっとストーブの前にいましたね。
会社に入って、外貼り断熱の建て方を勉強したり、実際にモデルハウスの中に入ってみて「こんな家ってあるんだ」と衝撃を受けました。家中があったかいなんてことがあり得るのか、と驚きました。
なので気持ちよく過ごせることは、当たり前のことではあるのですがこだわっている部分ですね。ずっと住んでる家でも、改めて「あぁ、いい家に住めているな~」と思ってもらえるような場所を作っていきたいです。
―こもだ建総様は家を建てたあとのメンテナンスも密にされていらっしゃるので、お客様から喜びの声などを聞く機会も多いのではないですか?
そうですね。どんなお客様でも当然、これまで住んでいた家と比べたら様々な面で良くなっているはずなんです。そういう意味もあって「快適に過ごしています!」など喜んでいただいているとのご報告をいただくことも多いです。
ただ、その状況に甘んじないようにとは自分に言い聞かせています。どんなにこだわりを持っていても完璧な家づくりはあり得ません。僕たちが手掛ける一棟一棟が、家づくりを続ける企業としてのプロセスでもあるんです。
目の前のお客様に対して、今自分たちができる最高を提供する。その一方でより高みを目指していく姿勢は忘れないようにしています。

山長の木を使うのは、それが今の最適解だから。
—ありがとうございます。 さて、先ほども少し話に出てきましたが、こもだ建総様は国産の木材を使うなど、素材にすごくこだわっていらっしゃいますよね。そんな中で山長の木材を使っていただいているわけですが、そこにはどのようなお考えがあるのでしょうか。
自然素材を使うというポリシーを変える、という選択肢はそもそも絶対にないんですよ。その中で、どれだけ良いものを使えるか、です。
やっぱり良い材料を使って、良い家をつくりたい。それだけなんです。
それでたどり着いたのが山長商店。なので、もし山長さんを上回るような品質の木材を提供する業者さんが出てきたり、逆に山長さんのクオリティが下がるようなことがあれば、今のままのお付き合いではなくなる可能性が高いですよね。
もちろん、一時的にいい材料が出せるだけではだめで、安定して良い材料を揃えられるということも大切です。「いい材料が手に入ったけど、2年でなくなっちゃった」みたいな話が、実際に起こったりするんです。もちろんそれでは、僕たち工務店は困ります。
山長さんの紀州材は、木目が詰まっていて、強く、狂いが少なく木材として優秀。それに加えて、植林→育林→伐採→製材→乾燥→品質検査などの仕組みとサイクルがしっかりできていることへの安心感もあります。
お客様に自信を持って提案できる体制で仕事をされていることを知っているので、私たちもお客様も安心できるというのが、山長さんを使わせてもらっている大きな理由ですね。
なので、「山長だからいい」じゃないんですよ。今の最適解が山長さんなんです。ただ、ここ埼玉から山長さんの和歌山まで遠いんですよね。もっと近くに同等以上の品質で出してくれるところがあればな~と思うこともあります(笑)。
※モックは紀州材ブランドを扱う山長商店のグループ会社です。山長商店では、高度な乾燥技術と全量検査による徹底した強度・含水率管理を実施し、【無垢材】でも品質が【集成材】とほぼ同等に安定しているJAS製品を生産しています。

「もっと見てほしい!」―隠れてしまう構造をあえて公開する理由
—今日のインタビューは、現在建築中のお宅の「構造見学会」にお邪魔して行っております。「完成見学会」をされている工務店さんは多いですが、あえて構造を見せているのはなぜでしょうか?
構造は、建築が進むにつれて隠れて見えなくなってしまう部分です。ただ、僕としては、山長さんのいい材料や大工さんたちの仕事ぶりがただ見えなくなってしまうのがどうしても勿体ない!
もちろん注文住宅なのでお施主様のご意向が優先ですが、ご了承いただける場合はせっかくのチャンスなのでたくさんの人に見てもらいたいと思っています。
実際にお越しになった方が驚かれるのは「香り」ですかね。僕たちはもう慣れてしまっているため正直あまり分からないのですが、入った瞬間の香りや空気感が、他社さんの現場とは違うと言われます。
「新築住宅の匂い」という表現がありますが、一般的にいわれるあの匂いは接着剤や塗料など色々なものが混ざった匂いなんですよね。なのでここで嗅ぐ香りは、皆さんがイメージしているものとギャップがあると思います。
木の種類によって香りも様々ですから、僕たちが「木の家だといい香りがしますよ!」とこじつけるつもりは全くないのですが、お客様の中でポジティブに感じ取っていただけると嬉しいですね。この現場だからこそ感じていただけるものがある、というのも構造見学会の良さですね。

身近な人の喜びを感じられる仕事がしたい
—今日のお話を通して、菰田社長は本当に「山」や「木」が好きなんだな、と感じました。会社の方針というのもあるかもしれませんが、菰田社長ご自身が、国産の木材に対してすごく愛着を持ってこだわっていらっしゃいますよね。
国産の木材を使って家づくりをしているというと、「日本の木でこんなにできるんですね?」と驚かれることがあります。でも、日本は国土面積に占める森林の割合が約7割もあり、先進国の中では有数の森林大国なんです。それでいて、世界最大の木材輸入国とも言われています。もちろん建築以外で使われる部分も含めての話ですが、建築用材だけでも相当量の輸入をしています。
僕としては「身の回りにこんなに木があるんだから、それを使わないのはなぜ?」と思うんですが、そもそもそうした事実がほとんど知られていません。
外国から輸入するということは、木材を買ったお金は外国に行き、その国の人を潤します。日本の木を買えば、日本の山で働く人が潤い、仕事が増えます。その人たちがお金を使うことでその地域の人たちも潤うようになります。
僕は、どこかで知らない誰かが喜んでいるよりも、自分の身近な人たちが豊かに幸せになってくれるほうが嬉しいんです。このグローバル時代に視野が狭いと言われるかもしれませんが、そういう経済の循環を近くで感じていたいんですよね。
これは、僕自身の性格が影響している部分も多いので、「これが正しい!」と思っているわけではないです。例えばロシアで木が余っているからそれを使わない手はない、という発想もありだと思います。ただ、僕はやらない。
今後、言葉の壁がなくなって、地球の反対側にいる人とも日常的なコミュニケーションができるようになって、その人たちの喜びが直で感じられるようになったら、もしかしたら僕の考えも変わるかもしれませんが、今はやっぱり身近な人が喜んでくれている人が嬉しいですね。

—身近な人とのつながりという視点で言うと、こもだ建総様では職人さんや取引先の方々を「パートナー」と呼び、強く連携していらっしゃいます。そこにはどのような想いがあるのでしょうか?
家をつくるときに、ハウスメーカーが上だとか下だとか、そういうことはないんですよ。一人ひとり、各々が任された自分の役割をしっかり果たせばいい家ができるんです。
「元請けがー」「下請けが―」みたいな話しではなくて、お互いに家づくりのパートナーであるという意識が大事なんだと思います。こもだ建総では、創業時より、地元さいたまの家づくりに携わる協力企業約70社を束ね、こもだ建総グループ「万龍会」として組織しています。
万龍会のパートナーの各社には、こもだ建総の社名入りの名刺や袢纏(はんてん)をお渡ししたり、一緒に研修会を行ったりして、家づくりに対する意識を共有するための取り組みもしています。
私ひとりで家をつくることはできません。しかし極端な話ですが、もし仮にこもだ建総という会社の社員が私一人になってしまったとしても、パートナーがいれば家はできるんです。だから大切なのは会社という形や母体の大きさではなくて、一棟一棟に携わる人たちの仕事の掛け合わせだと思っています。
またお施主様には、家づくりに携わった全パートナーの社名を板に列挙した「上棟看板」をお贈りしています。これは、お施主様にとっての記念品というだけではなく、パートナー各社に、「これに恥じない仕事をしていこう」というメッセージが込められたものでもあります。
作り手の顔が見える家づくりをすることで、職人とお客様が直接繋がり、全員で一緒に作りあげていくんだという気持ちを強く持っています。

住まい手が変わっても住み続けられるいい家をつくりたい
—ありがとうございます。最後に、菰田社長の今後の展望をお聞かせください。
「いい家を作り、長く住んでもらいたい」ということをずっと考えています。ただ注文住宅の場合、お施主様の要望によって家の形や仕様が変わりますので、住む人が変わると、家としての性能が変わっていなくても、住み続けられないことが多々あります。
これは弊社だけでなく、日本の住宅全般に言えることです。戸建住宅の場合、1代、2代で取り壊されてしまう家が多いのがすごく残念だと思っています。
そうではなくて、住まい手が変わっても住み続けられるような建物としての住宅が増えると良いなと考えているんです。僕たちもそういった提案をしながら、50年、100年ずっと住み続けられるようないい家を作れる会社になれるといいなと思っています。
インタビューを終えて
この「みなみが行く!」シリーズとして初めて、構造見学会でのインタビューをさせていただきました。企画としても初めてですが、私自身構造見学会に参加させていただくこと自体初めてで、そういった意味での「みなみが行く!」にもなりました。
お施主さんがいらっしゃる中でのインタビューということもあり、どのような流れで進めていくか、一人でも多くの方に来場いただくためにはなど打合せをさせていただきました。こもだ建総様が伝えたい想いに少しでもお力になれればとお手伝いさせていただきました。
あえて「隠れてしまう」構造を見せたいという菰田社長の言葉を聞きながら、社長が山や木材、特に国産材を使う理由が住まい手のためはもちろんのこと生産者への循環に対する想いを抱いていらっしゃることを実感しました。
「いい家をつくりたい」。その純粋な想いに触れ、私もその一部を担わせていただいているのだと背筋が伸びました。私たちもこの家づくりのパートナーの一員であるのだという事に対する誇りと責任を改めて強く感じる時間でした。
私たちはお施主様と直接接する機会はあまりありませんが、一つひとつの仕事に対してその先にいるお施主様、住まい手を意識した行動をしていきたいと思います。
(聴き手:高橋 みなみ)
株式会社こもだ建総
昭和41年創業。素材と人にこだわり、「快適で心豊かな暮らし」を実現します。
代表取締役:菰田 誠
所在地:〒048-684-8888
埼玉県さいたま市見沼区御蔵797-2
ホームページ:https://www.komodakensou.co.jp/